妻の職場の近くに、野菜の直売店ができた。現役を引退した農家の老夫婦が、老後の楽しみとして開いた店だ。店といっても、場所は老夫婦宅の玄関先。それほど広くないテーブルに、季節の野菜が並べられている。高齢の老夫婦は、四六時中、店番ができない。そこで人々の良心に期待し、「お金はここに」と書かれた空き缶を置いている。
新鮮な野菜に惹かれて妻が品物を選んでいると、家から老夫婦が出てきた。妻を見るなり、「お金、払ってよね」と言った。妻は一瞬ショックを受けた。しかし、心無い人々の行為で傷ついているのだと思うと、慰労したい気持ちが大きくなった。それ以来、わが家の食卓には老夫婦が作った野菜が並んでいる。
先日、その店で買ったカボチャを煮て食べた。とても甘くて、家族全員が「おいしい」という言葉を連発した。娘は早速、お礼の手紙を書いた。「おじいさん、おばあさん。おいしいやさいをありがとう。みんなでモリモリ食べています」このような文面の下には、私たち家族が笑顔で食事をしているイラストが描かれていた。
数日後、妻が店に行くと、ちょうど老夫婦が野菜を並べているところだった。嬉しそうな顔をしていた。ふと見上げると、玄関のドアに、額に入れた娘の手紙が掲げられていた。日常的な些細なことでも、感謝の意を表せば相手は喜ぶ。それが手紙であればなお良い。長い間、消えずに残るからだ。特に子供には、お礼の手紙を書く習慣を身に付けさせよう。豊富な人間関係が築かれ、人格の形成に大きく役に立つはずだ。