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お父さんの背中

第10回

 

ピンチこそ、悟りのチャンス

コラムニスト 大森 浩一郎

 耳の難病にかかった小学1年生の長男が、8時間に及ぶ大手術の末、夏休みの間、入院した。医療行為である「手術・入院」も、幼い子供にとっては「傷害・監禁事件」に等しい。楽しみにしていた初めての夏休みに、身体を切られる。手術後はトイレにも行けず、身体に差し込まれた管から排泄物を出す。四六時中、腕には点滴の針が突き刺さる…。大人でさえ音を上げる状況だ。

 毎日付き添い、そんな我が子の姿を見る親も辛い。しかも夜中には、本人はもとより周りの患者たちも頻繁にナースコールをするため、寝心地の悪い簡易ベッドと相まって寝不足になり、疲れ果てる。表面的には悲惨な体験だが、私たち親子にとっては恵みの期間だった。ある悟りを得たからだ。

 親身に尽くしてくれた医師や看護師、手術の成功のために祈ってくれた人々、お見舞いに来てくれた人々、私の不在中に仕事を補ってくれた会社の人々・・・。「人間は1人で生きているのではない」と実感し、「ありがたい」と心の底から思った。

 親の思いは、子に伝わる。長男も退院してからは、とにかく姉と弟をいたわる。家事の手伝いも積極的にする。私と妻にマッサージまでしてくれる。幼いながらも、やはり「1人で生きているのではない、ありがたい」と悟ったのだ。「なぜ自分だけが…」と恨んで終わるのと、「ありがたい」と悟るのでは大違いだ。人生は「何を体験したか」が本質ではない。「その体験から何を悟ったか」ということが、最高の宝になるのだ。

 今、ピンチに遭遇しているお父さんへ。ピンチこそ、悟りのチャンスだ。お父さんの悟りは、必ず子供に受け継がれる。精進しよう。


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