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お父さんの背中

第13回

 

勉強よりも大切なもの

コラムニスト 大森 浩一郎

 長女は学校の成績が優秀であるとは言えない。しかし私は、それほど心配していない。むろん、成績を良くする努力は必要だが、仮に成績が伸びなくても、不幸になるとは限らないからだ。そんな長女が、年末の発表会で劇を演じた。演目は「人魚姫」。長女は脇役の「街の人」だった。主役の「人魚姫」を演じたかったが、希望者が多く、ジャンケンで負けてしまったのだ。

 発表会の数日後、長女がポツリと言った。「発表会で泣いちゃったんだ。」私と妻は、「脇役で悔しかったのだろう」と思った。しかし、次の長女の言葉に、私たちは驚いた。「だって、人魚姫が泡になって、かわいそうなんだもん。」芝居だということも忘れ、かわいそうな人魚姫に涙を流してしまったのだ。

 他人の喜び、悲しみを、自分のものとして感じられる「共感性」に恵まれていると思った。また、ある日、お気に入りの天使の絵が描かれたバッチを胸につけて走っていた長女は、石につまずいて転んだ。しかし、運良く怪我をしなかった。そのときのことを、熱っぽく、こう報告してきた。「天使が抱っこしてくれて、守ってくれたんだよ!」

 本当に天使が出てきたのかどうかは分からない。しかし、何かに守られ、生かされている、と実感していることは事実だ。人々が共感性と、他者に生かされている実感をもてば、戦争や犯罪はなくなる。勉強も大切だが、私は長女のこのような感性を伸ばしたい。そのほうが、きっと素晴らしいお母さんになれると思うのだ。子供にはそれぞれ個性がある。親はそれを的確に把握し、伸ばしてあげたいものだ。


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